― 台湾での一言 ―

中華民国全国総工会70周年

 

 日本の報道ではほとんど扱われたことがありませんが、世界の労働組合はITUC(国際労働組合総連合)という世界組織で結ばれており、連合もその主要な構成組織の一つです。(実はこのITUCで今、侃侃諤諤の議論が進行しているのですが、そのことはまた近いうちにご紹介したいと思います。)

 先日このITUCのアジア・太平洋地域組織(ITUC・AP)の執行委員会が台湾で行われました。ITUCでは共産主義を国是とする大陸中国の中華全国総工会とはお互いに一線を画したなかで、台湾に拠点を持つ中華民国全国総工会(CFL)が加盟組織として参画をしています。大陸中国の中華全国総工会とは種々の意見交換を行う関係は持ちながらも、歴史的経過も踏まえつつ、組織の括りとしてはお互いに一線を画して今日に至っています。

 このたび、このCFLが創設70周年を迎えるにあたり、ITUC-APの執行委員会が誘致をされました。

 

  

☆台湾の活動家との出会い

 

 執行委員会終了後に催されたCFL70周年記念、11月13日のレセプションでのことです。

 労働大臣の祝辞の際、当初の予定の通訳さんが専門用語で苦労されているなかで、見かねて急遽、ピンチヒッターが指名されました。その後の英語通訳は「なんだ、最初から彼がやればよかったじゃないか」と我々が思ったほど、急遽の代役にもかかわらず流ちょうなものでした。その後、懇談の席を移動した際、彼と目が合い、どちらからともなく名刺交換に進みわかったことは、彼が、Serve the People Association というNGOで主任を務める汪英達(Won Ying-Dah)という人であったということです。

 台湾ではいわゆる外国人労働者が70万人、人口比で言えば日本の三倍規模の受け入れをしています。とりわけ介護の世界は、外国人材抜きには成り立たない状況となっています。彼のNGOは、その外国人労働者の駆け込み寺的機能を果たしている団体なのです。元々CFLで働いていたという彼とのしばしの懇談は、非常に印象深いものでした。次の予定があって席を去らなければならない旨を告げた私に彼は、「一言だけ是非聞いてください。民間の団体に任せてはダメだということです。この一言です。」

 外国人材の問題に関わっている方々であれば、すぐわかると思います。日本の技能実習制度でいえば「監理団体」という組織が設定されているのですが、まともな団体がある一方で、相当規模の団体は、彼らの処遇条件や人権を監視し、守るどころか、悪徳ブローカーのように実習生を食い物にしているのです。年間ベースで1万人近くの失踪者が生まれるような、違法と人権侵害の実態をつくりだしているのです。現在、政府がしゃにむにスタートさせようとしている新制度では「登録支援機関」というものが設定されます。悪徳組織の温床になりかねないという関係者・有識者の心配は当然のものと思います。

 汪さんはそのあたりのことを、最大の問題として直感的に指摘したのでしょう。

 

 

☆「一言」に込められた思い

 

 今回、入管法改正の法案審議の前段から巻き起こった外国人材拡大に関わる議論、この議論はもっと早くにやっておくべきだった、という主張があります。私もそれはそうだと思います。国民的議論が決定的に不足しています。そして、本格的な移民政策の議論を怠ってきた日本だからこそ、この間に生じてきたあまたの矛盾を全て俎上にあげて、そして悲劇的な事例に目をおおうことなく、トータルの議論をしていくべきです。そして、これまで中途半端な対応しかとってこなかった日本、「後発」の日本だからこそ、海外での様々な知見から教訓を得て、そのことを活かした制度設計をすべきではないでしょうか? 台湾で受けとった一言に込められた思いは、私の頭のなかで日々大きく膨らんでいます。(了)