― 多様性の尊重と労働運動 ―

☆若者たちのきらめく個性

「ドマーニ展」をみてきました。

六本木の国立新美術館で開催されていたこの「ドマーニ・明日展」は、まさに明日に向かってさらなる期待がされている新進気鋭の芸術家たちの作品展示を毎年行っているものです。

学芸員の資格を持つ長女が関わっていたイベントだったこともあり、久しぶりの美術鑑賞をさせてもらいました。そして、たまたま同じ時期に同美術館で開催されていた五つの美術大学の卒業展示のコーナーにもふらっと足を踏み入れたのですが、これがまた、圧倒的な個性のきらめき。絵画もオブジェも、そして何が何やらよくわからぬような造形物も、「人間って実にいろんな奴がいるんだなあ」という気付きを含めて、若者たちの息吹を感じさせる作品群。多様性と活力のあふれる空間でした。

 

 

☆欧州発の多様性尊重

話を「ドマーニ・明日展」の方に戻しましょう。

この展覧会の特徴は、その作家の大半が文化庁の「新進芸術家海外研修」の経験者であるということです。私自身、そういう制度があるということは知らなかったのですが、展示の前段に示されていた世界地図のパネルに、行先の国別実績数が示されていました。やはり多いのはフランス、イギリス、ドイツ、イタリア、そして米国といったあたり、いわゆる欧米先進国ということです。

帰る道すがら、私の頭のなかには妙な納得感が芽生えていました。「人間って実にいろんな奴がいるんだなあ」と思わせるこれら多様性の発露、それを生み出す風土、そしてそういうものがはぐくまれてきた先進諸国の歴史、これらは全てつながっているものだということです。

その太い幹は、欧州発の民主主義の発展です。「自由にものが言える」「平和が確保されている」、そういうなかでなければ、芸術は花開きません。

 

 

☆多様性を大事にできる基盤は?

私の頭のなかに芽生えた妙な納得感は、もう一つあります。これら先進国は、みな労働運動が確固たる地位を占めて、民主主義を体現してきた国々であるということです。とりわけ欧州においては、社会の包摂性であるとか、生活・雇用のセーフティーネットの整備が進められてきました。足もとでは、分断やポピュリズムの台頭といった不安要素が頭をもたげていますが、私は歴史のなかで築かれてきた流れそのものが大きく棄損することはないと思っています。多様性の発露を支え続けている社会基盤は、ちょっとやそっとで無くなるようなものではありません。

わが国では、戦前の勇気ある先達が生みだした労働運動が、戦時中の中断を経て、終戦直後のGHQの指導により復活・定着をし、今日につながっています。しかし、この間の経済発展がありながら、未だ生活者本位・労働者本位のセーフティーネットは脆弱なままです。むしろ、この二十年間で格差は拡大し、貧困の連鎖により、深刻な教育格差が生じてしまっています。

私は欧州の先進国に比べて大きく劣るセーフティーネットの問題が、今後わが国の多様性や活力を阻害することになるのではないか、そして結果として、日本の没落を招いてしまうのではないかという深刻な危機感を持っています。

このあたりの問題意識が、日頃あまりメディアに取り上げらないことを、大変残念に思っています。今年30周年を迎える連合は、ビジョンと政策大綱のブラッシュアップにより、この点の重要性をクローズアップさせていきます。