―新型コロナウィルスがあぶりだす社会の矛盾―

☆普段からの備えがないと直撃を受ける

 新型コロナウィルスの感染拡大は今、命と健康のみならず、雇用と生活、そして経済そのものの失速という広範な影響をわが国にもたらしています。冷静な判断と、迅速にして適切な対応が求められています。

 連合と関係組織の労働相談にも連日様々な問合せが殺到しています。一部の報道にも紹介されていますが、相談の主は、臨時教員・保育園(パート勤務)、サービス業で働く方々のみならず、フリーランス、イベント対応等で働いている雇用保険等の通常のセーフティーネットにカバーされない方々も含まれています。

 私たち連合からすれば、かねてから主張してきたセーフティーネットの重要性をあらためて痛感するところですが、今は直面している危機の回避に全力投球していかねばなりません。政府・政党への要請を重ねてきています。これらの方々に対する集中的な支援が実行されなければなりません。

  

☆わが国の社会に内在している矛盾が露呈

 かつての高度成長期にできあがったわが国の社会モデルにおいては、個々人の雇用と生活の保障を企業がかなりの厚みでカバーをしていました。しかし、その後のオイルショック、そしてバブルの崩壊によって、状況は大きく変わっています。引き金を引いたのは1995年に日経連が打ち出した「新時代の日本的経営」であり、そこで描かれた新たな雇用のポートフォリオです。結果として不安定かつ低処遇の働き方を増やしてしまい、いわゆる正社員以外の働き方をその後の20年余りで全体の約2割から4割近くにまで増やしてしまったのです。

 本来は、同時にセーフティーネットを構築しておくべきであったと言わざるを得ません。リーマンショックの時もそうでしたが、今回のようなケースが直撃すると、問題の大きさが際立って表に現れるのです。

 さらに注視すべきは、いわゆるあいまいな雇用といわれるギグワーカー、フリーランス、契約労働等の方々への支援措置です。政府はこれまで、セーフティーネットの構築を怠ってきた一方で、これらのあいまいな雇用の拡大を許してきました。責任をもって対処していかなければなりません。

 

 ☆取り上げ方は旧態依然

 一方2020春季生活闘争において、連合は分配構造の転換を目指しています。わが国においては、デフレ的状況が20年以上引き続いてきたなかで、不安定な雇用・あいまいな雇用の増大とともに、労働組合がなくて賃金制度のない中小企業で働く方々の格差拡大も依然として重たい課題です。2016年に連合として「底上げ」を標榜して以来、中小の組織もだいぶ賃上げが進んできましたが、これをさらに強化し拡げていきたいのです。

 3月13日の第一回集計では100人未満のところの賃上げ率が2.11%(昨年同時期と同水準)と、1000人以上の大企業の賃上げ率1.90%(対昨年同時期▲0.26%)をしっかりと上回りました。後続の中小組合に対して立派な見本を示してくれています。そして有期・短時間・契約労働者の時給上げ幅は30.49円と初めて30円台を越えましたし、率換算では2.94%のアップです。

 しかしいつも大企業・正社員の賃上げにしか重点を置かない大手マスコミの皆さんはこのことをほとんどとりあげません。昨年より全体の上げ幅が縮小したことや一部のベアゼロを殊更に大きく取り上げた見出しばかりが目立ちます。さらには経営側のいう脱横並びや、足もとのコロナの影響となんとか結びつけようとする様は、正直言ってゲンナリします。

 

☆分配構造の転換を止めてはならない

 そして大きく取り上げられているのはトヨタの「ベアゼロ」です。8,600円もの賃上げ水準がありながらベアはゼロだというのです。どうせ大きく取り上げるのであればもう少し中身や意味合いを掘り下げてもらいたいものですが、各社とも、経営側が言っていることをそのまま鵜呑みにして世間に流しているように思われます。

 

 率直に言って疑問だらけの内容ではないでしょうか?

疑問その①…2017年時点で明らかになっていた定昇(賃金制度維持分)は7,300円だったがいつの間に8,600円になったのか?3年の間に制度改訂がありさらに賃金カーブの勾配が立ったのか?

疑問その②…2018年以降、内訳のベア分は表示しないと言っておきながらなぜゼロのときだけ公表したのか?

疑問その③…8,600円という高水準の賃上げ金額は、本来経済の好循環に向けた相乗効果につなげるべきと思うが、なぜ殊更にベアゼロといって世の中にマイナス心理をまき散らしたのか?

疑問その④…定昇金額はトップレベルの高水準で、一時金は6.5か月の満額回答で、なぜ社会性の最も高い賃上げについてはベアゼロを強調するのか?

 

 分配構造の転換は、大企業や経営者団体が社会全体のことや公益性を重視するようにならないと成り立ちません。取引慣行の是正を含めて、連合は粘り強く取り組んでいきます。

 春闘は、公平・公正な社会構造を目指していくという意味でも、セーフティーネットを全ての働く者に張っていく営みと軌を一にするものといえます。コロナ騒動に埋没してはなりません。