再びの…「侮辱」ってなんだ?

☆思いがけずも国会へ

 昨日、衆議院法務委員会に参考人として呼ばれ、意見陳述をしてきました。労組役員としての現役を退いて半年余り、まさかまた国会で意見を述べる機会が巡ってこようとは思いませんでした。

 これにはわけがあります。今国会で審議対象になっている法案は昨年の10月に法制審議会において答申された内容がベースとなっているのですが、その法制審において私は、侮辱罪の問題についての議論があまりにも拙速であるとして態度を保留しました。法制審議会の採決で態度を保留するというのはかなり異例のことで、私の在任中初めてのことでした。その当時の思いについてはブログにもつづったところです。

 

imoriki.hatenablog.com

☆本当にやる気があるのか?

 私は陳述のなかで、「今回の改正は、目的とすることについてはしっかりとその目的達成を目指し、一方で目的としていないことについては、生じかねない危険性の芽を摘んでおくということが、極めて重要なポイント」であると主張しました。

 今回の問題のきっかけは、木村花さんが自死に追い込まれた事案であり、昨日同じく参考人陳述をされたお母様の木村響子さんからは、心の底からの切実な訴えがなされました。私としてやるせないのは、今回の政府提出法案の内容では本質的な解決策にはほど遠く、単なるアリバイ作りに終わってしまう可能性が高いということです。年間30件程度の侮辱罪が、量刑を名誉棄損罪並みに高めたからといって、どこまでその効果が発揮されるというのでしょうか?

 そもそも侮辱罪というものが設定された時代には、SNSにおける匿名の罵詈雑言や人格攻撃などということは想定されておらず、そのような事柄への対策の踏み込みが不明なままでは、本当にやる気があるのかと思われても仕方がないように思います。目的達成を目指したものとは言い難いのです。

 

☆アリバイ作りが危険の芽を生ずる?

 そして看過できないのは、今回の内容が、政治家への批判等の言論を抑圧するという危険の芽です。量刑を名誉棄損罪並みに重くするにもかかわらず、名誉棄損罪には備わっている制約や免責の定めがないのです。端的にいうならば、「このアホ大臣ひっこめ!」などとツイートし、それがばれたら即逮捕ということにつながりかねないのです。

 そんなばかなと思われるかもしれません。すぐさまあちこちでそのようなことになるとは私も思いません。しかしこの曖昧さは後世に禍根を残す危険性を十分に持っているのです。目的としていないはずのことから危険の芽を生じてしまうのです。

 

☆勘ぐられないような国会審議を

 勘ぐる人が出てきてもおかしくないと思います。実はそれを目的にしているのだと。お上が侮辱されたらすぐに逮捕して牢屋にぶち込むことができるようにするのだと。

 今回、立憲民主党・無所属会派は通称「インターネット誹謗中傷対策法案」という対案を提出しています。侮辱罪とはまた別に、「人の内面における人格に対する加害の目的で人を誹謗・中傷した者」に対する「加害目的誹謗等罪」の新設や、「プロバイダー責任制限法の一部改正」等の、目的達成に向けた内容、そして一方では名誉棄損罪と同等の制約や免責を設けること等の、危険性の芽を摘む措置、この両面で、大変重要な内容です。

 これらの内容が採用され、より良い法案が目指されなければ、政府・与党の下心が勘ぐられることは避けられないのではないでしょうか?

(了)