これでも「報道」と呼べるのだろうか
☆自分たちの「ストーリー」に合わないものは伝えない姿勢
1月5日の連合の新年交歓会は久々に総理が出席したということもあって、全ての全国紙がその模様を報じていました。しかし主催者代表の芳野会長が挨拶で何を言っていたのかはほとんど取り上げられていません。政治に関わる以下のコメントは全く引用されていません。
「与党一強状態を打ち破り、二大政党的体制のもとで与野党が切磋琢磨する、緊張感のある政治にしなければなりません」
「数におごり、民主主義をないがしろにするような政治が目に余る一方で、人々の素朴な疑問や怒りが足もとから沸き起こりつつあります」
ほとんど全ての新聞の論調は、政府与党と連合とがまるで蜜月に向かおうとしているかのような見せ方なので、これらの芳野コメントはそういうストーリーとは合わないということなのでしょう。事実を知ろうとするのであれば、連合のホームページから動画を拾うしかありません。
一方では岸田総理の挨拶の内容に関してはおしなべて言及しているわけですから、大本営発表だけを読者に信じ込ませていたあの時代のマスコミとあまり変わらないといったら言い過ぎでしょうか?
☆政府代表の参加は当り前
そもそも最近の報道は、連合がこれまでと違う方向で政治と関わろうとしているような見せ方のものが散見されますが、これもまことにいい加減な話です。政府与党との向き合い方も、共産党との間の相容れない関係も、32年余りの連合の歴史において一貫し続けているのであって、猫の目のように動き回っているのは政治の側だけといって過言ではありません。そちらにしか視座のない人からすれば連合が動いているように見えるのでしょうが、全く持って迷惑な話です。新聞報道を情報源としている多くの人々に誤解をまき散らしているのですから。
100年余りの歴史を持つILO(国際労働機関)が確立している政労使の三者構成原則は先進国では当たり前の常識です。新年交歓会において、連合は「労」の代表として「政」「使」の代表をご招待しています。ご都合さえ合うのであれば岸田総理にお出でいただけるのは当たりまえのことと私は理解しています。それを大げさに取り上げるよりも、なぜこれが9年ぶりなのかということについての掘り下げがあってしかるべきだったのではないでしょうか?
☆連合は何を求めているのか?
さらに深刻なことは、連合が何を求めているのかということについて、報道がほとんど伝えていないということです。新年交歓会における芳野会長の挨拶は、働く者本位・生活者本位の観点で様々な課題に触れています。ジェンダー平等・多様性推進の観点に力点を置いていることももちろんです。
長引くコロナ禍のなかで、不安定な雇用形態で働く人々が厳しい状況に置かれ続けています。とりわけ女性にその影響が顕著に出てしまっています。ニューノーマルの時代を展望するためには絶対に克服すべき問題です。
一部の先行報道によれば、岸田総理の施政方針演説の予定原稿には「北欧などの先進事例に学び、公的職業訓練のあり方をゼロベースで見直す」とあるそうです。注目したいと思います。連合がその必要性を強く主張してきている雇用・生活保障・教育訓練をパッケージにしたセーフティーネットの考え方に沿うものとなるのであれば、コロナ禍で苦境にあえぐ人々に手を差し伸べる有力な手段となるでしょう。経済・社会の立て直しに大きなインパクトを与えるものとなることも間違いありません。
与野党の切磋琢磨で実現をしてもらいたいと思います。
(了)