「侮辱」ってなんだ?
☆Wで侮辱された?
一昨年の7月にこのブログで「ツイッターの光と影」というタイトルのものを出した際にも言っていたことなのですが、どこの誰か全くわからない人から悪口や罵詈雑言をいただくのはなかなか辛いものです。つい先日、ツイッターのアカウントの写真を亡き愛犬の在りし日の姿に変えたところ、早速いただいた返信(公開の)が、「何かやましいことがあるのですか。私は資本の犬だという告白ですか」というげんなりするものでした。
愛犬家の立場からするとそもそも「幕府の犬」というような使い方自体が犬に対する侮辱であるわけですが、その種の使い方が残念ながら一般的なものという前提に立てばこのコメントは私に対する侮辱でもあるわけで、つまりは私と亡き愛犬リンが一度にWで侮辱されたことにほかならず、本当に嫌になります。(このリンの話は拙著「神津式労働問題のレッスン」の「究極の犬、リン」という章で詳しく触れているので犬の好きな人は読んでみてください)
☆木村花さんの事件がきっかけだが
ところで法務省の審議会で「侮辱罪」の法定刑引き上げに関する答申が確認されたことはニュース等でご存知の方も多いことと思います。昨年5月の木村花さんの自死という大変痛ましい事件がきっかけとなったもので、ああそのことかと思われる方もいらっしゃるでしょう。
この問題そのものは看過できない事柄であり、私自身も上述のような話はほんの一端で、少なからず悩まされているのですが、今回の厳罰化の答申内容自体は拙速に過ぎるのではないかという疑念を強く持つものです。
「侮辱罪」とは刑法231条の定めである「事実を適示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は過料に処する」というものであり、この法定刑を「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料とする」というのが今回の答申です。公訴時効も1年から3年に延びるというものです。
ぱっと見でいうならば、今の量刑では軽すぎるからもっと重くして木村花さんのような悲劇が繰り返されないようにしようということでいいじゃないかとなってしまうわけで、事実、今回の答申はついこの間の9月半ばに大臣が諮問した案があっという間に了承されたわけです。
☆「侮辱」ってなんだ?
「侮辱」ってなんでしょうか?辞書を引けば「他者を侮り、蔑み、馬鹿にしたり、罵ったり、ないがしろにすること」とあります。非常に広い範囲でとらえ得るのではないかと思いますが、現状では「侮辱罪」の事案は年間で30件程度ということです。今回の厳罰化でどう変化していくのでしょうか?どう変化していくと期待されているのでしょうか?
同様に人の尊厳を傷つける罪であり今回の厳罰化で参考にされた「名誉棄損罪」では細かい制約や免責の定めがあるのですが、侮辱罪にはそれが現在ありません。
先進諸国では、刑事罰で牢屋に入れてしまうというやり方から、民事で解決を図ろうとする方向に転換する流れが一般的だそうです。SNS対策を地に足の着いた形で強化する一方で、権力の恣意で「侮辱されたから牢屋にぶち込む」などということが起きないようにしているということなのでしょう。
メディアの反応もイマイチで、17日付の朝日新聞の社説以外に、これらを問題視したものは見当たりませんでした。(あったらごめんなさい。おしえてください)目下総選挙のさなかですが、非常に大事なことが世の中では置き去りにされている、これもその一つではないかと思われてなりません。
(了)